「今日で、もうさよならだよ。」
僕が来るなりそういった君。
「そっか。」
ああ、もうなんだね。
なかないよ。なくのは君がいなくなってから。
笑って、送り出すんだ。

君と出会ったのは大学生の時。
友達に紹介されて、すぐに気があって、友達を交えてではなく、2人で会うことの方が多かった気がする。
好きになるのに、それほど時はかからなくて。
出会ってから1年ほどした頃、僕は君に好きだと伝えた。
君は一目惚れだといった。
はれて、恋人同士になった僕らは、喧嘩することもあったけど、それでも幸せに楽しく過ごせていたと思う。
だから、つきあって3年ぐらいたって、互いに仕事にもだいぶなれてきて、そろそろ結婚かな、と思うのは当然かなと思う。
そんなふうに思っていたときだった。
彼女はここのところ体調が悪そうで、風邪かな、と思って心配していたけど、彼女も僕も気にしていなかった。
しかし、ある日彼女は倒れてしまった。
仕事場でのことだった。
病院に運ばれた彼女のもとへいくと、そこに彼女の両親もいた。
聞かされた事実は、信じられないものだった。
……彼女は重い病気にかかっていたのだ。
そして、もう手遅れで、治療のしようがないことも、長くないことも…

どうして、君なんだろうね。
君は別れようといった。
でも、僕は別れたくなかった。
「僕のこと、もう好きじゃないっていうなら別れるよ。でも、そうじゃないんだろ?」
「……っ」
「最後まで、君のそばにいさせて。」
「……うん。」
それから僕は毎日彼女のもとを訪れている。
彼女は元気そうに見える。
それでも、彼女との別れはせまっていたのだ。
そして今日も、彼女のところへ向う。


「うん。……でも、本当にいいの?」
「うん、いいよ。」
僕がそういうと彼女の眉は困ったようにハの字になる。
「そう……」
「…にしても、今日はいい天気だね。来るとき空見上げたら、ほんときれいだった。」
今日の空は、雲1つなく憎らしいほどきれいな青空。
「……うん、きれい。お散歩行きたいなあ」
こぼされた呟き。
……最後の散歩、か。
「じゃあ、いこうか。」
そういって僕は車椅子を開き、準備する。
彼女は歩けないわけじゃない。しかし歩きだとあまりゆっくりとした散歩はできないから、だから車椅子でいく。

「きもちいね。植物たちもキラキラしてる。」
病院の庭に出てきて彼女は言った。
「そうだね、きれいだ。」
そんな風にして、僕らはゆっくりと散歩を楽しみながら他愛もない話をしていた。



そして、時間(とき)は来たのだ。

「そろそろ帰らなくちゃ。」
夜、もう面会時間は終わる。
今日も1日、彼女は元気だったから、さよならなんて嘘じゃないかと思った。
「そっか。…じゃあね」
そういって微笑んだ君に、僕はくちづけた。
「じゃあね。」
そして君に背を向ける。
そんな僕に彼女は泣きそうな声で言った。
「ねえ、ありがとっ…だいすき!」
…僕も。
「いままでありがとう。大好きだよ。またね。」



…先ほど彼女の火葬が終わった。
これでもう、本当にさようなら。
“あなたのおかげで、あの子、最後まで笑っていたの。あの子のそばにいてくれてありがとう。”
彼女の両親に言われたことだ。
目を閉じる。
そうすると、頬を冷たいものが伝ったのがわかった。
君にあえてよかった。
君と出会えてよかった。


さよなら…





――――――――――――

どうも。
これはある曲をイメージして、書いてみたものです。
これが思い浮かんだとき、BLじゃなくてノーマルで思い浮かんだので少し驚いています。
“君(彼女)”と“僕”にはあえて名前をつけずにいってみました。
うん……