それは一瞬のことだった。
一瞬にして、すべて奪われていったのである。

すべては翠に染まる

俺はフィーレン。
レイヴン支部の隊員の1人である。
今回の任務は自分について語ること。
正直なんでだ、と思ったが眞の命令だ。
仕方がない。

その昔、俺はその能力上とてもひねくれたやつだった。
いや、今でもひねくれてっけどどっちかって言えば愛想がないって言った方がいい気がする。
んで、人付き合いが苦手だ。
それを和に言ったら驚かれた。
あいつ、うそだろ、だってお前よく話すじゃん。とかいいやがって。そういう意味じゃねえよ。
じゃあどう意味だって?
それはなあ、昔の癖が残ってんのか高慢ちきに喋っちまうから色々とあれなんだよ。
あー、色々っつーのはあれだ。うざがられたりとか、そんなの。
っと、話がずれたな。
まあ俺はひねくれてたわけだ。
すべてが思い通りに、相手が意のままになるわけだから……

俺がこの能力を自覚したのはたしか小5の頃。
俺には弟がいたんだが、ある日その弟が言った。
どうしてお兄ちゃんが言ったことは聞いてもらえるのに僕の言ったことは聞いてもらえないの?
一瞬なんのことかと思ったが、すぐに理解した。
その前の日母親と3人で買い物に行ったときだ。
母親はそこで2人でひとつのお菓子を選べと言った。
しかし俺と弟は別々のお菓子を欲しがった。
それを母親にいうと、母は弟の選んだ方を選ぼうとしたので、俺は強くそのお菓子は嫌だと、こっちがいいと言った。
そしたら母親はじゃあこっちにしましょう、と俺の選んだ方を買った。
そんなようなことが、それ以前にもある。
そしてお菓子だけではなく他にも、俺が欲しいとねだったものは、すべて買われていた。
そんなことを思い出すうちに、なにか自分には不思議な力があるんじゃないか、と当時の俺は思った。
そしてそれは当たっていたのである。
普通のやつだったらそれはただの子供の妄想でしかなく、後々笑い話になるだけだがな。
そんな俺は、中学生になるとその力を使って色々とやんちゃした。
教師にテストの答えを吐かせてみたり、不良に向かって命令してみたり。
たまにうまく作用しないこともあって、絡まれるうちにケンカも強くなった。
いつのまにか、周りから恐れられるようになった。
女にたいしても、力を使ったこともある。
そんなんだから、他人に対してとても冷めたような感じだった。

そして俺について語るときに、欠かせないのが眞のこと。
いや、俺だけじゃねえか。
璃緒も光稀もリシェも、そして和も。みんな眞のことは欠かせない。
眞とあったのは高2の時。
そのときの事を思い出すと、未だに恥ずかしくなる。
光稀には鼻で笑われるしよ。
あれはバカだった。
女は力を使えば思いのまま、なんて思っていた俺は、ナンパなんてものもよくしていた。
その日も暇だからふらふら街を歩いてて。
そしたら目の前に髪が長い女とウェーブのかかった髪をした女がいるのが見えてさ。
横顔とかいい感じだったしちょうどいいや、って思って声かけたんだよなあ。
おねーさんひま?って。
そしたらさ、ウェーブの女に、は?ってすげえ顔されてさ。
まだ力は使ってなかったからまあいいや、って思ったけど、ちょっとは顔に自信あったからへこんだ。
で、今度は力を使って言った。
「ね、俺と遊ぼーよ。」
あっけない、なんて自分に酔うように思って。
あーほんとこのときの俺マジで恥ずかしいだろ。アホすぎる。
しかし返されたのは思いもよらない反応だった。
「は?何、ナンパとか馬鹿みたい。」
ウェーブの女の、そんな辛辣な言葉。
そんな反応をされたことはなくて、驚いたし焦った。
「え、な、なんで…っ」
「なにあんた、成功するとか思ってたの。ナルシストとかキモい。」
刺々しい言葉に俺の心が折れそうになったのは言うまでもない。
そんなとき、ふともう1人の髪の長い子をみると、なにか難しい顔をしていた。
その反応もされたことなくて驚いていると、いままで黙っていたその子が口を開いた。
何を言われるのかと身構えたけど、俺には意味のわからない言葉だった。
「光稀、この子だ。反応してる。」
…俺?なにが?
「ッこいつが!?いやよ、そんなの。」
いや、ってほんとこの子ひどい。
俺が泣きそうになってると、そんなこと言わないの。と、ウェーブの子をたしなめて、その人は言った。
「突然こんなことを言われて驚くかもしれないけど、君はなにか、特別な力を持っているんだ。」
「とく、べつなちから…」
なんで?
なんでわかった?
「よかった。君は自覚しているんだね。」
そんな風に言うもんだから、俺は心の中を読まれたと思った。
実際はなんで、って声に出してただけだったんだけどな。
そしてこう続けられた。
「それだったら話は早い。よかったら僕たちと一緒に来てもらえるかな。」
君はコントロールできてるみたいだけど一応ね…、と意味を説明された。
そこは俺みたいな人たちが集まる場所だということ。
不思議な、普通の人間にはない異能(ちから)をもった人が、そこを拠点に活動をすること。
主な活動は能力者保護や異能者犯罪の取り締まりらしい。
2人は能力者で、今日は俺を探しに来たらしいこと。
眞と光稀という名前で、眞は男だということ。
そんなことを教えてもらった。

「とまあこんな感じなんだけど…」
なにかに迷っているようだった。
「だけど、僕らと来てもらう場合は……。」
「場合は?」
どうしたんだろうか?
眞は何に迷っているんだろう?
俺がそう思っていると、今まで黙っていた光稀がそれを見かねていった。
「その場合は、あんたの周りの、あんたに関する記憶は消させて貰うわ。」
記憶を、消す…?
「なん…で……。」
そう、俺が問うと光稀はきっぱりといった。
「必要だからよ。」
そんな光稀に、眞は困ったように眉を下げて光稀の名前を呼んだ。
だけど光稀はそれを気に止めずに続けた。
「私たちは異質よ。異質なの。そしてその異質さは異能だけではないのよ。それは寿命や成長にも言えること。だから、人と関わることはしない方がいい。自分自身が傷つくだけだもの。」
淡々としゃべっていた。
けど、きっと光稀はそれで傷ついたことがあるんだろうな、と何となく思った。
寿命と成長についてはよくわからない。
だから記憶を消す必要性はわからなかった。
けど、俺の中の答えはもう決まってた。

「わかった。それでもいい、俺はついていくよ。」
確かに今までいた場所だ。
その場所から俺が消えてしまうのは悲しかった。
だけど、その悲しみよりもこの人たちと一緒にいたい、その思いの方が強かった。
「いいんだね?」
眞が最終確認だ、というように俺に聞いた。
今まで俺のいた場所。
悲しいけど……
「ああ。」
さよなら、だ。

このあとは眞に連れられて協会に来て、そんでレイヴンに配属されて今にいたるってわけさ。
ここに来たことは後悔していない。
むしろよかった、って思ってる。
ここに来て、眞にあえて。

とまあ、こんな感じかな。
よしっオッケーもらったし、これで終わり!


――――――


だいぶ前にみっきの番外編をのせたので、これをかいちゃいました。
今回はフィーレンという、愛想の悪い男の話です。
任務、という形で語り口調にしてみました。
フィーの能力は、人を操る能力です。
この子は結構遅くに眞と出会いました。
ああ、まだ本編ないのにな。

*補足
協会にくる場合、その家族などからその本人の記憶は消すことになっています。
能力者は成長が少し遅いのです。まあそれは人それぞれなのですが。
そして寿命もだいぶ延びています。


執筆日2010.12.08